もう、十年以上も前のことですが、バッハの無伴奏チェロソナタにはまって多くに演奏家のレコーディングを聴き漁ったことがありました。そのときにもっとも気に入ったのが彼の2度目のレコーディング。バロック・チェロによるものでした。いまでも、この曲を聴くときにはまずこのCDをかけます。そういうこともあって、とても楽しみでリサイタルに出かけました。ちなみに彼は2012年にこの組曲3度目の録音のCDを出しています。
今回はピリオド楽器の設定ではなくモダン楽器の設定。一曲目の出だしからまったく違う演奏。今まで聴いたことのあるこの組曲の弾き方とはまったく違うものでした。だからといって奇を衒って違いを出すというのもではありません。英語のdeliberateという言葉が頭に浮かびました。日本語たどぴったりくるニュウアンスを持つ言葉を見つけれていませんが、慎重で思慮深い演奏 という感じかと思います。器楽演奏家には曲を素材として自分の世界を創り上げていくタイプとその曲に委ねた作曲家の意図と想像しうるその時代の演奏スタイルを尊重した自らの解釈を表現していこうとするタイプとに大別されるかと思いますが、この日の演奏は紛れも無く後者のものでした。自分と楽器と曲との対話を通じて、今は亡き歴史的大作曲家に話かけようとしているかのように思えた感動的な演奏でした。この組曲はウィスペルウェイにとっての生き様・ライフワークなのでしょう。
通常のコンサートより一時間半早く始まり、2つの休憩を挟んだ長いリサイタルでしたが、妻と二人、胸に熱いものを感じながら帰途につきました。
ピーター・ウィスペルウェイの公式サイト:http://pieterwispelwey.com/
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