2012年8月31日金曜日

Baden Weekend

先週の土曜日(8月25日)には、友人の音楽家の招きで家族でバーデンへ行ってきました。 ウィーンから南へ車で40分ほど。モーツアルトやベートーベンも利用した古くからある温泉療養地です。お昼は、両家族そろってハイキングがてら隣町のSoossにあるホイリゲにいきます。 ホイリゲに関してはこちらをご参照ください: ホイリゲへ行こう!

葡萄畑を抜けて隣町のSoossへ
見渡す限り葡萄畑

この地方は、夏に気温が上がるので赤ワインも良いのだそうです。

Soossの街の大通りは,ホイリゲが軒並み並んでいます。法律で営業出来る日数が決められているので、その日、何処が開いているのか一目で分かるように看板がありました。

ハイキングと昼食のあと、子供たちはバーデンご自宅近くの近所の温泉プールへ。大人はコーヒーとデザートをごちそうになりました。ピザのデリバリーの夕食のあと帰途につきました。楽しい一日でした。

2012年8月29日水曜日

All Nippon Youth Orchestra


先週の水曜日(8月22日)に ウィーン墺日協会( http://www.oejg.org/)の理事の方のお誘いで、全日本選抜ユースオーケストラのコンサートに行って来ました。会場は、たまたま家の近所の ヴォティーフ教会 (http://www.votivkirche.at)。 

日本から来た33人の高校生がチェコ・ヴィルトゥオージ室内管弦楽団と一緒にビゼーのカルメン(抜粋)、「ふるさと」、ドボルザーク交響曲第9番『新世界から』の第2楽章・第4楽章などを演奏。いいコンサートでした。 

海外に住んでいるということもあるのか、「ふるさと」を聞くとほろりとさせされます。前にいった別のコンサートで「ふるさと」が演奏された際にはハンカチで目頭を押さえている日本人の方々が目に付きました。

2012年8月25日土曜日

Kueng Sonic のUSB DAC

5月の投稿で紹介したThe Audio Eagleことノベルトさんの紹介で知り合ったMartin Küngさん。この世にオーディオ工芸家という職業が存在するならば、マーチンさんはまさにその一人。 自らの工房 Kueng Sonicsを構えています。起業家というよりというよりちょっと気弱な感じの研究熱心な天才肌の職人といった趣の方。オーディオ機器のみならず、楽器用のアンプや生楽器用ピックアップ,各種録音機器などの作成・販売・改造なども行っています。基本的にオーダー・カスタム メードが中心。

僕は、2ヶ月ほど前にノベルトさんの勧めでMartinさん作成の外付けHDD用の電源とUSBケーブルを自宅試聴させてもらって、かなりの音質の向上を確認。価格も手ごろだったので即導入。 とても気に入っています。

今回は、彼がUSB DACを貸してくださるというので喜んで聞かせてもらいました。これは、ノベルトさんのお宅でも聞かせてもらったもので、その際とても音が良いのに驚いたのですが、貸してもらったバージョンはさらにアップグレードされているとのこと。 楽しみです。


中央のノブは入力切替スイッチ
コンパクトな大きさです。





裏面、SDPIF入力x2、 USB入力、 RCA出力、電源


外見は黒い箱に、入力切替スイッチのみというシンプルさ。外見より音質・中身重視というところは、僕の好みです。大きさもコンパクト。 デジタル部分はPCM1794とTenor 7022 とオーソドックスな構成で最新とは言いがたいですが、アナログ部分はオペアンプではなくFETのディスクリート回路! 期待できます。

うちにやって来て、ここ4日程経ちました。期待通り、すばらしい音でした。アコースティック楽器がとても自然な響きで聞こえ、交響曲のダイナミックレンジも十分でフォルテシモでも音がにごりません。人の声も温かみが感じられます。音場感・音像感も申し分ありません。音楽に没頭できます。さすがにWeiss DAC2と比べると情報量と低音の質感が若干劣りますが、このUSB DACの価格はヨーロッパでのWeiss DAC2販売価格の6割程度なので、すばらしいコスト・パフォーマンスと言えるでしょう。 多くのオーディオファイルに聞いてもらうことができたらいいなと思う機器の一つです。

Kueng Sonics のサイト(本業が忙しいとかでまだ工事中...): Kueng Sonics


2012年8月22日水曜日

6moons によるMac用音楽再生ソフトレビュー


『SixMoons.com』にMac用音楽再生ソフトレビューが載っています。記事はこちら: 6moons.com-Four Software Music Players

SixMoons.com は、十年ほどまえからあるサイトでオーディオファイルのためのインターネット/ウェブマガジンの草分けの一つ。主宰者のSrajan Ebaen氏は、ドイツ生まれで音大出身。クラリネットをやっていたそうです。紆余曲折を得て、アメリカに渡りオーディオ関係のキャリヤに就いたのち1999年ごろを契機にオーディオ評論家に転じ、2002年に本サイトを立ち上げました。当時オーディオ関連のサイトは限られていたので、僕も当時からの愛読者の一人。このサイトは、ヨーロッパ出身者やアメリカ以外の英語圏の国のライターが中心で、大多数を占めるアメリカ発信のオーディオファイルのためのインターネット/ウェブマガジンとはちょっと異なる観点が面白くて特徴かと思います。

さてこの記事は、Bit Perfect, Decibel, Audirvana, Pure Musicを比較。ちょっと残念なのはAmarraが入っていないこと。古くなったとはいえ、一応Mac用音楽再生ソフトのメジャーなので片手落ちのような気がしないでもないですが、レビューと僕自身のソフトの評価が似通っているので紹介します。

簡単に結論を要約すると:

  • Bit Perfect と Decibelは、オーディオファイルの観点からは物足りない。
  • Audirvana,とPure Musicは、他と比較して格段と音が良い、音は似た傾向だが、 Audirvanaのほうがより自然でより正確な楽器の音色で筆者の好み。よりマスター・テープ(ファイル)に近い音ではないかと思われる。 コスト・パフォーマンスは非常に高くお薦め。
  • Pure Musicは、豊富な機能でマルチ・チャンネル再生もできるのでそれら機能が必要な人たち向き。    

  • さて、この記事には主宰者Srajan Ebaen氏のAudirvana Direct Modeベータ版に関する追記があり、このベータ版でAudirvanaはさらに音質的に優位になったと記しています。ただし、Direct Modeは、アップル社のプログラミング・ルールに従っていないところもあり、それ故のリスクがある可能性もあるので、Direct Modeを使用中には他のアプリを使わないほうが良いとのことです。

以上に僕自身のAmarraとの比較を加えるとすると、Amarraはよりアナログ・ライクな音を狙ったソフトといえるかと思います。Audiravanaと比べると柔らかめ・暖かめという感じです。あくまでも比較相対論の観点から述べてますので誤解の無いように...。Sasaki氏のサイトソフトウエア開発者の語るプレーヤーソフトの特徴で紹介されているAudioStream.com の記事で『...our Sonic Studio Engine (SSE), which is recognized as the most accurate and most 'analog' sounding audio playback system available for professional and consumer audio applications.』(http://www.audiostream.com/content/media-player-qa-q2-what-are-your-products-most-important-features)とSonic Studio社 社長のJonathan Reichbachも述べているので、これは同社の狙いであり、多くのユーザーの共通の評価ではないかと思われます。

僕は、Amarra とAudiravana Direct Modeが今のところ気に入っており、どちらがいいかは好みと各々のシステムとの相性で決まるかと思っています。特にAmarra は、AmarraHiFiで価格も大幅下がったのでこの2つのソフトを比較するメリットはあると思います。 我が 家のシステムは300Bシングルのパワーアンプを中心としたシステムですのでバランス的にはAudiravana Direct Modeが今のところもっとも好ましいです。 Audiravana Direct Modeベータ版は、8月19日付けでアップデート版1.3.9.8が公開されています。ダウンロードはこちらです:http://audirvana.com/?page_id=216

少し前になりますがPure Music を家で試した時の印象はエッジがより立った、情報量が多くなったように聞こえる音でもっと細かいところが聞こえるかな?といった感じでした。より、オーディオ・ファイル好みの音かというとそうかも知れません。ただ自分にとってはちょっと聴き疲れする音であったことに加え、ソフトの安定性がいまひとつだったので購入には至りませんでした。特筆に価するのは、位相を任意に変換させる機能がついていたこと。これはPure Music のDSP機能の一部ですが、聴感上の音の劣化のも抑えられており、他のソフトにもあったらいいなと思いました。


Pure Music の発売元Channel Dのサイトはこちら: http://www.channld.com/puremusic/
Amarra/Amarra HiFi の発売元Sonic Studioのサイトはこちら:http://www.sonicstudio.com/index.html

 

2012年8月21日火曜日

HIGA TV

去る、6月28日付けNew York Times Magazine (ニューヨークタイムスの日曜版についてくる小雑誌)に On You Tube, Amateur is the New Proという記事があった。いかにアマチュアのビデオ作家達(その多くはティーネージャー)がYouTubeから得る収入によって自活したり(記事によると推定年収10万ドル以上は、ざらだとか)、YouTubeでの名声がキャリアの登竜門となっているかということを書いた記事ですが、これはYouTubeがエンタテーメント・メディアとしての地位を確立してきたということの現れで、インターネットによるパラダイムシフトが進んでいることを示していると思おう。

数年前のことだが、『...ライアン・ヒガ(Ryan Higa)の親戚?って、よく聞かれるよ、ハハハ...』 といいながら娘たちが教えてくれた、nigahiga(ライアン・ヒガのYouTubeアカウント名)。いまや再生回数12億回以上、チャンネル登録者530万人以上のYouTubeセレブリティー。YouTube nigahiga チャンネルはこちら 本ブログ投稿のタイトル、HigaTVは、彼の新しいチャンネル名。

nigahigaの初期(2007年)のヒットビデオ『How to be Ninja』


最近(2012年)の作品



 最近では、2011年2月投稿したミュージックビデオが『♪~金曜日、金曜日、その次は土曜日~♪』という他愛なく、くだらないが一度聞いたら忘れらないキャッチーな歌詞で、数週間で一億七千万回近い再生回数をえるも、史上最悪のポップソングと酷評され、『...300万以上のdislikeと100万以上の中傷コメント...』(Wikipedia による) に耐えられずに一時はビデオを削除したレベッカ・ブラック(Rebecca Black、当時14歳)は、ポップスターへの道を歩み始めている。

2011年YouTube#1ビデオになった『Friday』。 Rebecca Black は、2011年に世界中でもっとも多くグーグルで検索された言葉にもなりました(Google Zeitgiestによる)


このような例は、いくつもあり始めた人たちがほとんど投資せず、宣伝もせず、人々が単に面白いといったことが有機的に広まりそれが億単位の回数でアクセスされているということがインターネットが媒体となったことによる大きな変化であろう。まさに、投稿者・ビデオ作者の個人の感性が見ている人たちの個々の感性で評価されているという個人の感性の世界である。個人が自由に自己の感性と想像力の表現をビデオという形で世界中に発表でき、また観客はリアルタイムで感想を使えられる媒体。その技術によってフィードバックやアクセスの数が瞬時に正確にわかるということがYouTubeでバイラルな(Viral: まるで ウィルスが人々に病気を感染させ一気に広めるように人気が出るということからきた表現)ビデオとセレブリティーが生まれることを促進しているのだと思う。

インターネットに代表されるIT革命は、農業革命、産業革命に次ぐ第3の人類の生き方の転機として位置られており、インターネット革命などはまだ始まったばかりといわれている。娘達を通して今のティネージャーの世代を見ていると、インターネットがラジオ、テレビそして印刷媒体を凌駕するほどに情報と娯楽の源となってきつつあることが実感される。そのインターネットは十数年前には考えも及ばなかったほどの大きな変化をポップカルチャーにひきおこし、ある意味では娯楽そのもの概念を変えていこうとしている。このような変化をわれわれの周りのいろいろな分野で引き起こしているのであるから、これからどんな風に世の中が変わってくるのか想像もつかない。まさに人間のアイディアと想像力の限界がIT革命の限界という感じとなるような気がする。

アクセス数が瞬時にわかるというな技術の裏には、誰がこれを見ているかを特定できるという技術もはらんであるから、このような変革と技術革新が世の中を全体主義のような悪い方向にむかっていくのに使われずに、個人の想像力と独立性を重んじ有機的に運営されていく世の中へ変わっていくことに使われることを望む限りである。

2012年8月17日金曜日

木釘の靴


僕の足は小さくて幅広なので、靴を探すのには困る。 特に欧米では靴屋やデパートの靴売り場でサイズを言うと難しい顔をされ,首を横に振られることがほとんど、運が良ければせいぜい片手の指で数られる程度の靴が出てくる。選択肢が多くて悩むことは無いので楽と言えば楽なのかもしれないがデザインで靴を選ぶ楽しみはないのに等しい。日本で買えばいいかとも思うのだが、一般的に日本のほうが高く、特にいまの円高な環境ではドルやユーロで給与を受け取るものにとっては高嶺の花。日本製の靴は軽くて丁寧に作られているのだが、欧米に長く住みでこちらの丈夫でがっしりした靴を見慣れていると、ちょっと安心感に欠け割高感があることも否めない。

ウィーンに移って一年半ほどたち少し慣れてきてわかってきたことだが、ウィーンでは中小の靴メーカの商品が結構あり、思ったよりもサイズを探せるということ。最近見つけたのだが、オーストリアのメーカーでビジネスシューズのイージー・メードをやっているところ。その名もずばり、Handmacher(手メーカー)。 価格は200ユーロちょっと。これが高いと思うかどうかは各々見方が次第かとは思うが、日本の代表的な紳士靴メーカーであるリーガルやスコッチ・グレインの革底靴が3~4万円することを勘案すれば、リーズナブルな値段だと思う。お店でサンプルをみるとよさそうだったので、しばらく考えて注文して届いた靴が下の写真。  



お店の話では、靴はチェコで作られているので安いのだそうだ。この靴の靴底は、なんと木釘で打ちつけられている。 (下がその拡大写真)インターネットで調べる限り、木釘を使うやり方は古く、いまでも残っているのは旧オーストリア・ハンガリー帝国であった地域に多いらしい。 木釘で打ち付けた靴底はカパッと底が外れることもあるらしいので縫い付ける方法が主流となったのはそれなりの理由があるのだと思う。でも、むかしながらのやり方に頑なにこだわった靴を履いてみるというのはちょっと特別な心をくすぐられる気持ち。






ちなみに、僕がこの靴を求めたお店は、Mörtz という家族でやっている小さなお店でもともとは登山靴が専門のようだが、ビジネスシューズ、靴の修理一般、カスタムメード靴、舞台・演劇・映画でキャストが履く靴の製作などもやっている。店員さんも感じよく。登山靴やハイキング・シューズは自ら靴を作る靴職人のお父さん厳選のセレクションと的確なアドバイスでいいものが選べる。ビジネスシューズは、このHandmacher以外にも、お店のオリジナル・オーダーメードがありこちらはより堅牢で高級感あふれる靴なのだが、値段は600ユーロからとのこと。いつか、一足作ってもらいたいなーと思うがいつになることやら。 ぼくは、この靴のほかにハイキングシューズもここで買った。ウィーンでお薦めの一店。

お店(Mörtz)のサイトはこちら:http://www.bergschuhe.at/

メーカーのサイトはこちら:http://www.handmacher.at/





2012年8月15日水曜日

Genbaku Nohi <原爆の日>

先週の8月8日に国連ウィーン本部(Vienna International Centre)で、原爆追悼式典が行われました。主催は、Ms.Yuko Gulda とNGO Committee on Peace, Vienna (ウィーンNGO平和委員会)。

ウィーン在住の日本人舞踏家、Aiko Kazuko Kurosaki氏によるパフォーマンス

Yuko Gulda氏による開会の辞
 Genbaku Nohi 公式サイト:http://www.genbaku-no-hi.com/index-english.php 原爆記念日を国際的な公的記念日として制定するために活動しているグルダ祐子氏主宰のNGOです。


2012年8月11日土曜日

Audirvana Plus のDirect Mode ベータ版 その2













我が家のデジタルオーディオ環境が復活したので、ふと思い出してAudirvana Plus のDirect Mode ベータ版がどうなっているかをチェック。おお〜なんとその後5つもアップデートがリリースされているではありませんか! Damienさん、すごい! 早速、最新の1.3.9.7をダウンロードしてインストールしました。 まだ,のべ半日ほどしか試していませんが今のところ問題なく快調です。

我が家のシステムでは、Amarraは良い意味でも悪い意味でも音に暖かみが加わるような気がします。全体的にリラックスして聞きやすい音なのですが,楽器の音色がちょっと不自然な感じがして気になることがあります。Audirvana Plus のDirect Mode ベータ版を使うとそれがより自然に感じられるようになります。AmarraからAudirvana Plus のDirect Mode ベータ版に再生ソフトを切り替えてすぐは、多少音がきつめに聞こえる感じもしますがすぐに気にならなくなります。またAmarraにもどると若干物足りない感じ。早く、プロダクション・バージョンが出来ることを期待しています。

Audirvana Plus のDirect Mode ベータ版は、ここからダウンロード出来ます: http://audirvana.com/?page_id=216

ベータ版のアップデート情況はこちら:Audirvana Blog

Weiss DAC 2 復帰!





一週間終わったので金曜日の晩に一時帰国休暇中に修理から戻って来ていたDAC2を接続。我が家のデジタル再生環境が復活しました。5週間ぶりに聞く我が家の音はいいものです。それにしてもWeiss Engineering社のアフターサービスは良いですね。まさか、休暇中に戻ってくるとは,思ってもいませんでした。


2012年8月10日金曜日

ウィーンの洒落っ気

 先日紹介したPizza Mari のお手洗いのドア。

男性用


掃除用具入れ


女性用

ウィーンの街はこのような洒落っ気でいっぱいです。

2012年8月7日火曜日

真夏日のウィーンに戻ってきました!

一時帰国休暇を終えて、先週ウィーンに戻ってきました。やっと時差ぼけと旅行の疲れが取れてきたところです。 日本も暑かったですが、昨日まではこちらも毎日30度を超える真夏日。こちらでは、冷房がついていないアパート・住宅が普通なのですが日本より湿度が低いのと深夜から未明にかけて気温が20度近くまで下がるのが救いでした。 写真は、ドライミストを撒いているアイスクリーム・パーラー。




このコーンはすごいでしょう!


ヘンデル・ハルヴォルセンのパッサカリア




YouTubeで見られるヘンデル・ハルヴォルセンのパッサカリア名演奏です。パールマンとズッカーマンによるイスラエル・フィル創立60周年記念ガラ・コンサートのときの演奏。好きな一曲、好きな演奏です。


この演奏が入ったCD。僕は、この一曲の為にこれを買いました!






ふたつの嘘・祖国復帰・沖縄密約




 読書好きな叔母は、帰省するたびに読み終えた本をくれる。これもその一冊。沖縄密約―外務省機密漏洩事件に関するもの。2部構成となったこの本、第一部は機密漏洩事件直後に国家公務員法違反の裁判を当事者の一人であった西山記者の妻、第二部はその30年後の機密情報公開裁判を訴訟弁護士の2人の女性に焦点をあてて書かれたノンフィクション。多義的かつ複雑な問題をバランスよくわかり易く書いた、読みやすくかつ読み応えがあった。

 沖縄密約―外務省機密漏洩事件は、僕が小学校の3年生〜4年の頃に起きた事件。しばらく記憶の片隅に埋もれていたのだが、近年、文芸春秋に山崎豊子氏の「運命の人」が連載されたのを機にその記憶が一気に甦った。思い返せば、そのときの記憶はとても鮮明に残っていた。当時は、父の仕事の都合でイギリスに滞在中。沖縄の祖父母が送ってくれた週刊誌・新聞等で大きく取りあげられていた事件だった。その頃のイギリスはロンドン郊外にちっぽけな日本食品店が一店ある以外日本関係の店は無く子供ながらに日本語に飢えていたので9歳の子供の読解力ではわからない部分の多かったが、送られて来た雑誌や新聞は何度も何度も読み返していた。『極秘』と大きく赤のスタンプが押された書類の写真や出廷する当事者達の写真の乗ったグラピアのページはいまでもはっきりと思い出すことが出来る。

 この本を読んだことと今回の帰省で「旅券代わりの身分証明書」や「日本渡航証明書」を見つけたことなどが相まって沖縄復帰とその後の変貌ぶりについていろいろと思いが馳せた。多くの議論はあるにせよ日本復帰が沖縄にもたらした福利は偉大。基地問題や国内の他地域との格差等など課題は残っているとは思うが、もし日本復帰が実現していなかったら沖縄の現状は良くなかったであろう。生活水準・環境は発展途上国程度であった可能性が高いと思う。モノレールも那覇新都心も首里城復元も無かったであろうし、核も残り、米軍問題ももっと深刻なものとなっていた可能性が高い。沖縄出身者の観点からそう考えると、もしこの密約が沖縄の本土復帰の実現の有無を決めるほどの影響があるものであったのであれば、当時の政府・政治家の決断は沖縄とその人々に大きな恩恵をもたらしたと思う。

 国家機密保持、国民の利益、国の責任、情報公開、報道の自由のバランスをどう保つかという問題を正面から議論せず記者と外務省事務官の個人的モラルの問題にすり替えようとした政治・行政とそれを許容した立法、さらにはそれに乗せらたメディア、世論には失望するが、日本側の返還条件原則に反したコスト負担をしてでも沖縄返還を実施すべきかどうかという本質的な議論が当時出来たかどうかという点に関しては、実利より建前を重んじる日本の文化の傾向からすると残念ながら疑問をいたかざるを得ない。この点に関して言えば、今日本が直面している様々な問題・試練にも当てはまる課題であることのように思われてならない。