2019年7月25日木曜日

「木ですら涙を流すのです」Even A Tree Can Shed Tears: Japanese Folk & Rock 1969-1973

出典:Light In the Attic Records (http://lightintheattic.net/artist_press_images/)


今週のウィーンは最高が30度を超える夏の日が続いています。

もう一年半ほど前のことですが、NY タイムスの記事 ( https://nyti.ms/2iDzy2d ) を読んで買ったこの2枚組みレコード。主にアングラ・レコード・クラブ (通称: URC)などの日本のインディペンデント・レーベルから 1969~73年に出されたフォーク、ロックが収録されているこのコンピレーション・アルバムは自分にとってはとても新鮮でした。長い間、海外で生活していることもありますが、殆どの曲が初めて聞くものばかり。この時代、僕はちょうど小学校1年~5年生の頃なので、このレコードに収録されている曲になじみが無くても当然かという気もしますが、残念ながらその後も触れる機会がありませんでした。

僕も今までの60年近い人生の中、過ぎた年代の日本の映画・音楽といったいわゆるポップ・カルチャーに遭遇したのはいつも国外でした。黒澤明の「七人の侍」や小津安二郎「東京物語」を始めて観たのはアメリカで、80年代後半だった当時、黒澤/小津の映画監督としての経歴と彼らのフィルムグラフィーを含む映画について書かれた最も包括的な本はドナルド・リチー氏のものしか見当たりませんでした。そして、このアルバムです。灯台下暗しというか、自らの良いところが見えにくいというのは、日本だけのものではなく、アメリカでもとくに50~60年代のジャズに関しては、レコード・CDはあまり多く出ていなくて本も学術的な音楽学の専門書以外、一般の人がジャズを知るための本というのは殆ど無く、日本に帰国するたびに本やCDを買っていました。身近な物に価値を見出せないというのは、ある意味で人の文化・芸術・工芸に対する姿勢の本質的なところにあるものかもしれません。「青い鳥」や「オズの魔法使い」もそのようなテーマでしたね。

さて、このアルバムには以下の曲が収録されています:

遠藤賢司「カレーライス」
山平和彦 & ザ・シャーマン「そっと2人で」
金延幸子「あなたから遠くへ」
古井戸「ろくでなし」
加藤和彦「アーサー博士の人力飛行機」
はっぴいえんど「夏なんです」
西岡たかし「満員の木」
南正人「夜をくぐり抜けるまで」
浅川マキ「こんな風に過ぎて行くのなら」
布谷 文夫「水たまり」
細野晴臣「僕は一寸」
吉田拓郎「蒼い夏」
赤い鳥「竹田の子守唄」
愚「マリアンヌ」
斉藤哲夫「われわれは」
ジプシーブラッド「過ぎし日を見つめて」
はちみつぱい「塀の上で」
加川 良「ゼニの効用力について」
ディランII「男らしいってわかるかい」

立派な小冊子がついており、それには解説、それぞれの歌手・バンドの紹介、そして日本語の歌詞と英語での対訳が含まれています。日本という異文化と歴史的時代背景が異なるコンテクストで書かれた示唆に富む歌詞がそのソウルを失わずにとても巧みに英訳されていると思いました。

Even A Tree Can Shed Tearsは、一昔前の失われた名盤・珍盤・迷盤を発掘し正式にライセンスを取ったリイシューとして世に出しているアメリカ、シアトルのインディペンデント・レーベル、Light In The Atticが日本の過去の名作を復刻するシリーズ「Japan Archival Series」発足の第一作目。コンピレーション・プロデュースは Jake Orrall (DJ)、Yosuke Kitazawa (北澤洋祐) 同社Reissue Producer 兼フリーランス・ライター/編集者、 Matt Sullivan 同社創立者・共同経営者、そしてPatrick McCarthy, 同社 Project Manager and Reissue Producer(敬称略)とクレジットされています。ジャケットはイラストレーターの北澤平祐(きたざわへいすけ)氏、上述の北澤洋祐氏のお兄様だそうです。

ちなみに、前述のNYTimesに記事によると、このアルバムを出すにあったって一番大変だったのは、『こんなのがいまさら海外で売れるのか?』という懐疑心から版権を持つ日本のレーベルがライセンスすることを渋ったということだったらしいです。残念というかなんと言うか...。

第一作目に売れ行き・評判が良かったと思われ、同社からは次々と70~80年代の日本のポピュラー・ミュージックのコンピレーション・再発盤が発売されています。(海外在住の邦人を含む)海外の若者達によって、集められ、再び世に出され、紹介されている、これらの音楽を、まだ聴いたことが無い日本の若者から我々の年代の中年層までの方々に是非聞いていただき再発見して欲しいと思います。忘れられた宝物です。




関連リンク

Discogs Blog ”Your Guide To Japanese Music, By Light In The Attic’s Yosuke Kitazawa” 
https://blog.discogs.com/en/your-guide-to-japanese-music-by-light-in-the-attics-yosuke-kitazawa/

細野晴臣インタビュー:http://www.vinylmeplease.com/magazine/interview-haroumi-hosono-brian-wilson-japan/  

2019年7月18日木曜日

Bill Charlap Trio (ビル・チャーラップ・トリオ)コンサート




ウィーンは今のところ天候に恵まれ快適です。先週の土曜日(7月13日)の晩は、帰省している次女とBill Charlap Trioのコンサートに行ってきました。妻は友人たちと小旅行中なので二人。会場はPorgy&Bess。ピアニスト、ビル・チャーラップを支えるのはピーター・ワシントン、ケニー・ワシントン、元トミー・フラナガン・トリオのリズム・セクションであるとのこと。

ジャズが好きな今の職場の同僚に教えてもらったこのトリオ、往年のメインストリームなジャズに70~80年代のスパイスを加えたような他とは一線を画した独自なスタイルが面白いと感じています。

この日のコンサートは、ジャズピアノトリオの本流という感じで始まり、だんだんとノリが高まるにつれて独自のスタイルが前面に出てくる流れでした。

夏休みでウィーンの人々は街を離れているのか、お客さんは少なめでしたが、その分ジャズ好きとビル・チャーラップのファンが殆どだったようで、数を少なさを補って余りある熱く盛大な拍手と歓声を送っていました。

2019年7月14日日曜日

VH Audio V-Quad™ Cu24 と V-Twist™ Cu24ケーブル


24 AWG UniCrystal OCC 銅単線4芯スタークワッドのV-Quad™ Cu24 (https://www.vhaudio.com/ より引用)

今のところウィーンは、日中23度前後、夜は15度前後ととても快適な日々が続いています。 さて、今日は我が家のアナログ周りで使っているVH-Audio  V-Quad™ Cu24 とV-Twist™ Cu24ケーブルの紹介。

日本ではおそらく 馴染みがないVH Audioは、2000年代初めにインターネットで自作ケーブルの作り方を紹介していたChris VenHausが、あまりの反響に応えるために起こしたネットショップ。今では自社ケーブル、独自に開発した自社ブランドのコンデンサー、各種アクセサリー、自社開発・特注の配線材等を自作派やメーカーに販売するまでに成長しています。欧米では非常に高い評価を受けているブランドです。VH Audioの製品は僕好み音質傾向なので、もう15年近く、愛用しています。

V-Quad™ Cu24は、上のイラストのようにフッ素発泡樹脂で被覆した24 AWG UniCrystal OCC (単結晶OCC)銅単線4芯スタークワッドで構成されたケーブル。実際には下の写真のように見えます。


僕は、このケーブルをターンテーブル(こちら)から昇圧トランス(こちらこちら)そしてフォノイコとの間に計2組使っています。このケーブルはシールドされていないので、両方ともハム対策でシールドを施しました(こちら)。 一般的にシールドされていないピンケーブルのほうが僕好みの音であるほうが多いのですが、ハムを抑えるためには仕方ありません。RCAプラグはEichmann Silver Bullet、KLECopper Harmony (こちら) 、とWBT - 0102 Cu を試した結果、WBT - 0102 Cuのほうが僕の好みでした。

4 AWG UniCrystal OCC (単結晶OCC)銅単線2芯のV-Twist™ Cu24 (https://www.vhaudio.com/ より引用)

フッ素発泡樹脂24 AWG UniCrystal OCC (単結晶OCC)銅単線2芯で構成されてV-Twist™ Cu24はフォノイコとプリアンプの間に使っています。上のイラストでは4芯のように見えますが、2本と導線と2本テフロンスタビライザー(実際には太目の釣り糸のように見えます)を撚って作られています。こちらのほうはシールド無しで使用。プラグはWBT - 0102 Cuです。

肝心の音ですが、V-Quad™、V-Twist™共に中庸でバランスの取れたストレートで素直な音質のケーブルだと思います。僕がDAC-プリアンプ間とプリアンプーパワーアンプ間につかっているVHオーディオの木綿被覆OCC銀単線で作ったケーブル(後日紹介します)のほうが帯域レンジ感が広く、解像度の若干高い気がします。しかし、比較しなければV-Quad™、V-Twist™共に十分に満足のいく音です。エージングには時間がかかるほうだと思いますが、それが終わると煩さもまったく無く、自然な音で音楽を楽しめるケーブルだと思っています。

V-Quad™ と V-Twist™を比べると同方向の傾向ながら、前者のほうがより落ち着いて豊かで滑らかな音、後者はより解像度が高く、機器・音源の違いをハッキリと聞き分けやすい音であるかと思っています。どちらかというとV-Quad™のほうがより僕の好みかな。しかし、いずれもお勧めです。



2019年7月9日火曜日

スピーカー・ケーブル 上がりか(?) NVA -TSCS



ちょっと前に、NVA(Nene Valley Audio)のスピーカー・ケーブルLS6を導入したことを書きました(こちら)。 実は、そのブログの記事掲載のすぐ後に同社のフラッグシップであるTSCS(The Speaker Cable Statementの略)にアップグレード交換して。3ヶ月ほど使っています。

LS-6が、片チェンネルの+とーそれぞれが20本銀メッキ絶縁単線と細め銀合金絶縁単線28本で作られたスピーカー・ケーブルであるのに対し、TSCSは銀合金絶縁単線156本で作られたケーブル(具体的な素材は未発表)。それにTSCSには上の写真のようにシールドが施されています。

エージングに結構時間がかかりましたが、システムの音が全体的に向上したと思っています。LS-6のとき同様に顕著にどこがどうなったという言い方は難い変化なのですが、音楽性があがって多少劣る録音でもより楽しく音楽にのめりこんで聴けるようになったということと、より解像度が上がって音数も上がりオーディオ的興味もより満たせるようになったという印象です。これら2点は、自分の経験では相反するトレードオフ・ポイントのようで両方同時に高いレベルに保つことが難しく、どちらかというと不満が少ない妥協点を見つけるということに腐心していましたが、TSCSはこれらをほぼ妥協せずに両立させることができたスピーカー・ケーブルかと思っています。安いケーブルでは無いですが、今までいろんなケーブルを試してみた経験からすると類い稀なケーブルで、同等なレベルのものは少なくとも自分はこの数倍の価格のものしか聞いたことがありません。

とても悲しく残念なことに、NVAの創設者で事業主であったRichard Dunn氏は5月にお亡くなりになられました。RIP, Mr. Dunn.

今後、事業は継続するのか、後継者が誰になるのかが決まっておらずそれまでは営業休止中となっています。 同社のHPはまだアップされています。

NVA HiFiのHP: https://www.nvahifi.co.uk/

2019年7月3日水曜日

V-Cap CuTF (銅箔 テフロン)フィルムコンデンサーを 追加導入



ウィーンを襲った熱波は今週月曜日(7月1日)がピークでなんと38度まで気温が上がり、同日午後の夕立の後、とりあえず収まりました。予報によるとこれから数日は最高が27度前後、最低が15度前後の気温のようです。ほっと一息つけました。

先週の土曜日(6月29日)は熱波の最中にちょっとだけ気温が下がったので、パワーアンプのカップリングコンデンサ(後段部分)2個を3年以上まえに取り付けたJupiterの銅箔・オイルペーパーコンデンサ(こちら)からVH-Audio V-Cap CuTF (銅箔 テフロン)に交換しました。VH-Audio社がV-Capの北米で流通をすべて直売に切り替えたことによるPartsConnexionの在庫処分で45%引きだったのでついつい...ポチってしまった次第。

最適な音質に至るエージングに400時間かかるといわれているCuTFなので、音の変化を評価するには早すぎるのですが、とりあえずの印象としては低域に締まりと深みが出た感じで、解像度の若干上がったのか音数が少しだけ増えたような気がします。バイオリンやチェロなどはやや固めで細身の音ですがこれは経験上エージングでかなり向上すると思います。今のところ全体的に大きな変化というよりは漸進的な向上という感じです。もっと、ハッキリと解像度が上がり音数が増えるかなと思ったのですが、ちと、期待はずれ。エージングに望みを託します。

下のリンクで過去のブログの記事を読んでいただけると分かっていただけるかとも思うのですが、欧米で評価の高いハイエンドの(当然ながら価格もですが...)フィルム・コンデンサをいくつか使ってみた、とりあえずの自分なりの結論ですと、厳密にいって絶対的に良いのがVH-Audio V-Cap CuTFと Duelund社のCAST PIO Cu/Ag(銅・銀箔・オイル/蝋紙、こちら)。これら2種は甲乙つけがたくどれが良いかは、好みとオーディオシステムとの相性次第だと思います。僕はDuelund社のCAST PIO Cu/Agのほうがより好みですが、その形状と大きさから取り付けできないことも多いかと思います。我が家のパワーアンプには無理なのでV-Cap CuTFがベストチョイス。

ジュピター・コンデンサ社の銅箔・オイルペーパーコンデンサの音質は上述ベスト2種のコンデンサに肉薄、しかもこれらの3種の中で最も小型。価格も半分以下なので最高のコストパフォーマンスといえるでしょう。

本ブログのコンデンサに関する記事:

VH-Audio V-Cap CuTF (銅箔 テフロン コンデンサ):
http://isakusphere.blogspot.co.at/2012/10/vh-audio-v-cap-cutf.html

http://isakusphere.blogspot.com/2016/02/vh-audio-v-cap-cutf.html

プリアンプ用カップリング・コンデンサー3種比較:
http://isakusphere.blogspot.co.at/2013/03/blog-post_17.html

ムンドルフ・銀箔・オイル・フィルム・コンデンサ:
http://isakusphere.blogspot.co.at/2014/01/mundorf-supreme-silver-in-oil-capacitor.html

ClarityCap MR :
http://isakusphere.blogspot.co.at/2014/04/claritycapmr.html


Duelund Silver Copper 銀・銅箔ハイブリッド コンデンサ:
https://isakusphere.blogspot.com/2017/05/duelund-silver-copper.html

Jupiter CU PIO / ジュピター・コンデンサ社銅箔・オイルペーパーコンデンサ:
https://isakusphere.blogspot.com/2016/08/jupiter-cu-pio.html

VH Auidioのサイト: http://www.vhaudio.com/

PartsConnexionのサイト:https://www.partsconnexion.com/