2012年8月7日火曜日
ふたつの嘘・祖国復帰・沖縄密約
読書好きな叔母は、帰省するたびに読み終えた本をくれる。これもその一冊。沖縄密約―外務省機密漏洩事件に関するもの。2部構成となったこの本、第一部は機密漏洩事件直後に国家公務員法違反の裁判を当事者の一人であった西山記者の妻、第二部はその30年後の機密情報公開裁判を訴訟弁護士の2人の女性に焦点をあてて書かれたノンフィクション。多義的かつ複雑な問題をバランスよくわかり易く書いた、読みやすくかつ読み応えがあった。
沖縄密約―外務省機密漏洩事件は、僕が小学校の3年生〜4年の頃に起きた事件。しばらく記憶の片隅に埋もれていたのだが、近年、文芸春秋に山崎豊子氏の「運命の人」が連載されたのを機にその記憶が一気に甦った。思い返せば、そのときの記憶はとても鮮明に残っていた。当時は、父の仕事の都合でイギリスに滞在中。沖縄の祖父母が送ってくれた週刊誌・新聞等で大きく取りあげられていた事件だった。その頃のイギリスはロンドン郊外にちっぽけな日本食品店が一店ある以外日本関係の店は無く子供ながらに日本語に飢えていたので9歳の子供の読解力ではわからない部分の多かったが、送られて来た雑誌や新聞は何度も何度も読み返していた。『極秘』と大きく赤のスタンプが押された書類の写真や出廷する当事者達の写真の乗ったグラピアのページはいまでもはっきりと思い出すことが出来る。
この本を読んだことと今回の帰省で「旅券代わりの身分証明書」や「日本渡航証明書」を見つけたことなどが相まって沖縄復帰とその後の変貌ぶりについていろいろと思いが馳せた。多くの議論はあるにせよ日本復帰が沖縄にもたらした福利は偉大。基地問題や国内の他地域との格差等など課題は残っているとは思うが、もし日本復帰が実現していなかったら沖縄の現状は良くなかったであろう。生活水準・環境は発展途上国程度であった可能性が高いと思う。モノレールも那覇新都心も首里城復元も無かったであろうし、核も残り、米軍問題ももっと深刻なものとなっていた可能性が高い。沖縄出身者の観点からそう考えると、もしこの密約が沖縄の本土復帰の実現の有無を決めるほどの影響があるものであったのであれば、当時の政府・政治家の決断は沖縄とその人々に大きな恩恵をもたらしたと思う。
国家機密保持、国民の利益、国の責任、情報公開、報道の自由のバランスをどう保つかという問題を正面から議論せず記者と外務省事務官の個人的モラルの問題にすり替えようとした政治・行政とそれを許容した立法、さらにはそれに乗せらたメディア、世論には失望するが、日本側の返還条件原則に反したコスト負担をしてでも沖縄返還を実施すべきかどうかという本質的な議論が当時出来たかどうかという点に関しては、実利より建前を重んじる日本の文化の傾向からすると残念ながら疑問をいたかざるを得ない。この点に関して言えば、今日本が直面している様々な問題・試練にも当てはまる課題であることのように思われてならない。
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