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2020年10月1日木曜日

トランプ大統領の再選がありうる背景-その4(むすび)支持政党上の忠誠心・アンチ・トランプだけでバイデン氏は勝てるのか?



先日、第一回目の大統領候補公開討論が行われました(上の動画)。欧米の政治・時事評論家たちはこの討論会はいずれの候補者の支持率には大きな影響を持たないと評し、もともとトランプ氏支持者だった層はより支持が固まり、バイデン氏の支持者はよりその支持が強まったと述べています。また、討論会が終わった後のCBSニュースの調査によると、バイデン氏が勝ったとの回答は48%、トランプ氏は41%でした。10%は引き分けと回答したとのことで(日経新聞)評論家の分析を裏付けているとも言えます。『その1』で書いた、アメリカ大統領選挙の結果を左右するといわれている決まった支持政党がない層(Independents)に対しても大きな影響はなかったというのが大方の見方です。

これとは別に先週話題になったことが、レーガン政権下で大統領首席補左官及び財務省長官を務め、ブッシュ(父)政権下で国務長官を務めたアメリカ共和党の重鎮、ジェームス・ベーカー(James Baker)氏がTump大統領自身は支持しないが、共和党政権を守つためにトランプ大統領に投票すると述べたことです(WashingtonPost 紙)。共和党支持者間でも反トランプの意思を表す流れはあるようですが、アメリカでは(特に保守派)は支持政党にたいする忠誠心が強く・またそれが要求される国でもあると思います。政治家が帰属する政党を変えるということはよほどのことがない限り、その政治家の政治生命を終えるか短縮することにつながります。このことと『その2』で書いたようにもともと共和党支持者にはマスコミを信頼していない人が多いこともかさなってトランプ大統領が今から投票日までの間にどのような言動を行ってもその支持は揺るがないと考えて間違いないと思います。

そうなるとやはり、Indepdenents の層の動向がカギを握りますが、この層は一枚板ではなく、トランプ大統領は好ましくないからバイデン氏に投票するという人もいれば、トランプ氏個人の言動は気に入らないが政策・政見は自らの考えに相いるものがあるからトランプ大統領に投票、どちらも気に入らないから投票には消極的など様々な人々で成り立っています。ここで僕が気になるのはバイデン氏の政見・公約がはっきりと伝わってこないこと。氏からはアンチ・トランプのメッセージは強く伝わるものの、自分だったらどうする、自分が選ばれたら何がどう変わるのかということがあまり伝わってきません。Indepdenents の層になかにはおそらく、トランプ氏の言動は気に入らないがバイデン氏が大統領になったら何がどう変わるのか?ということで最終的に誰を支持するか決める人々も多いのではないかと思います。そのように考えると、アンチ・トランプを中心とした選挙戦略で勝てるのかという疑問もわいてきます。

今回のアメリカ大統領選挙はその結果いかんで世界が大きな転機を迎えうる重要な選挙になると思います。もしその転機を生む結果となれば、僕は地政学的にも大きなパラダイムシフトにつながっていくのではないかと考えています。僕にとってはとても気になる選挙です。


2020年9月30日水曜日

トランプ大統領の再選がありうる背景ーその3 勝つためには手段を選ばぬ選挙戦略

『困ったときのロジャー・ストーン』予告編 (ネットフリックス)

ネットフリックス製作のドキュメンタリー、『困ったときのロジャー・ストーン』。 これを観て、アメリカに長く住んでいた自分もとても驚きました。アメリカの選挙戦でこのように手段を選ばぬ戦略がまかり通っているとは思いもしませんでしたし、そのやり方を確立したと思われる中心人物がおおぴらにこのことを肯定しているからです。その中心人物とは、トランプ大統領は盟友で選挙参謀であったロジャー・ストーン氏。2016年大統領選挙に関わるロシア疑惑で実刑判決を受けるもトランプ大統領によって刑が免除された人物です。同じくロシア疑惑で実刑判決をうけたマナフォート元トランプ氏選対会長とは、80年代に設立され2010年までつづいた、アメリカ最強とまで言われたロビイスト会社の共同設立者の間柄です。彼らの選挙戦略の一つが陰謀論・陰謀論者たちの取り込みでした。


前回、アメリカ人のマスコミに対する不信感のマスコミの影響力が低いことを書きました。このようなマスコミに対する不信感が高い中、インターネット・SNSの普及とともに台頭してきたのが様々な陰謀論とその論者たちです。 とくによく報じられているが、Qアノン(ご参照:ニューズウィーク日本版)とインフォウォーズとその主宰者のアレックス・ジョーンズ氏 (ご参照:日経新聞)。 


もともとアメリカは個人主義が強くかつ人々の多様性をより容認する文化的な側面をもっています。これは日本やヨーロッパの国々とちがい、歴史が短くて主に移民で構成されたアメリカでは、国民共通の価値観・文化的思想などが希薄であるということで、アメリカ人の多くはそれぞれの拠り所を自ら見つけないといけないということが背景にあると思います。その拠り所を探す過程で、インターネットの浸透により、陰謀論・陰謀論者たちが容易に見いだされ、それを拠り所とし共鳴する人々が集まり、陰謀論サイトなどのヒット数、フォロアー数が爆発的に増え、それがまたマスコミ取り上げられ、さらに支持者が増えていくといった循環が続き政治的にも大きな影響力を持ちうる勢力となってきました。これらの陰謀論が極右的な思想に基づいていることに注目したロジャー・ストーン氏らの共和党の政治戦略家・顧問・選挙参謀らが選挙戦略に利用。陰謀論者たちも共和党有力者とパイプが自を正当化しメインストリームに進出、日の目を見る機会であるとの利害の一致の観もあって、トランプ大統領を支持・援護し、トランプ大統領も彼らの言い分を自らの言葉として発言することが増えたというのが現状です。その結果、荒唐無稽としか思えないような陰謀論にいわゆるメインストリームに属する人口層の信奉者が増加し2016年の選挙ではトランプ大統領当選に一役買った大きな支持勢力であったといわれています。

インフォウォーズとその主宰者のアレックス・ジョーンズ氏に関しては所在がはっきりとしているので、最近になって大手SNSプロバイダーなどからアカウントの削除などの処分を受けるようになってきいます。しかしその多くの信奉者たちや主宰者不明のQアノンとその信奉者たちは増え、トランプ支持のメッセージが匿名でネットで拡散されていくことは継続しており、今回の選挙でも引き続き、大きな影響力をお持つのか把握できていないということがあるかと思います。

このように勝つためには手段を選ばずという選挙戦略をとる陣営でもあるので、トランプ大統領が円滑な政権移行認めぬ構えと発言すれば、それは決してあり得ないことではないので大きな物議を醸しだすのです。

尚、下に添付した動画は、アメリカ公共放送サービスのインフォウォーズとその主宰者のアレックス・ジョーンズ氏に関するドキュメンタリー。英語ですか、観るに際しては地域限定の制限がないのでアメリカでなくとも全編を観ることができます。

(つづく)

『United States of Conspiracy』予告編 (PBSアメリカ公共放送サービス)


2020年9月29日火曜日

トランプ大統領の再選がありうる背景ーその2 アメリカ人のマスコミに対する不信感



今回はマスコミに関する不信感とネットによる様々な思想の拡散について書きます。

マスコミに対する信頼度 米ギャラップ社サイト(gallup.com)より引用

去年実施された米ギャラップ社の世論調査によると、59%のアメリカ人はマスコミ(新聞・ラジオ・テレビ)に対し不信感を持っているという結果がでています。上のグラフは、マスコミにニュースが『偏りなくすべてを、正確に、公平に伝える』といことに『とても信頼する』あるいは『概ね信頼する』との回答の割合のグラフです。この傾向は今にはじまったことではなく、同社サイトの詳細(https://news.gallup.com/poll/1663/Media-Use-Evaluation.aspx)をご覧いただくと分かりますが、調査が始まった1970年代をピークマスコミへの信頼度は下降しここ十年程はほぼ4割台となっています。


支持政党別のマスコミに対する信頼度 米ギャラップ社サイト(gallup.com)より引用

マスコミへの信頼度を回答者の支持政党別に見たのが上のグラフです。支持政党によってマスコミに対する信頼感の傾向がはっきりと異なっています。民主党支持者の7割程度はマスコミを信頼し、共和党の支持者は2割程度。トランプ大統領の任期が始まった2017以降、その乖離がより大きくなっていることがはっきりとわかります。決まった支持政党のない層(Independents)は四割前後です。

アメリカのマスコミは一部を除きその多くはよりリベラルで民主党支持の傾向がありますので、自らの観点が反映されていれば信頼できると評価しそうでなければ信頼できないと評価するのは当然の結果といえるでしょう。ということは、トランプ大統領を叩こうが、スキャンダルを暴露しようが、現大統領の支持層を揺るがすのは困難であるであろうということは想像がつくかと思います。ここで注目すべきは決まった支持政党のない層(Independents)もマスコミを信頼しているのは四割前後しかいないということです。つまり、マスコミの報道はSwing Stateの投票結果を左右しうる支持政党のない層(Independents)への影響も低いと考えらることです。したがって、マスコミの報道はアメリカ国民の考えに影響を及ぼすということは日本など比べるとだいぶ低いと言わざるを得ないでしょう。


マスコミ離れにさらに拍車をかけていると思われるのが、平均的に低いアメリカ成人の読解力かと思われます。OECD加盟国等24か国・地域(日、米、英、仏、独、韓、豪、加、フィンランド等 )が参加し、16歳~65歳までの男女個人を対象として実施された国際成人力調査(PIAAC)によると、アメリカ人で読解力が弱いと評価されたのは全体の21.7% それに日本は6.1%です(レベル1以下+欠損、5段階評価で最も読解力があるのはレベル5)。この結果をもとにアメリカ合衆国教育省はアメリカの成人(18歳以上)のおよそ4千3百万人強の読解力が弱いことにつながると分析しています。アメリカ合衆国国勢調査局によるとアメリカ成人はおよそ2億5千5百万人とされていますから全成人のおよそ17%の読解力は弱いことになります。このことからは、多くのアメリカ国民がニュースなどの時事情報を得るのはネット配信を含む動画・ラジオに頼る傾向があることがうかがえ時事情報ソースの多様化のなか、自らが信じたいもの・考えにあるものを真実・事実として受け入れる要素となっていっているのだと思います。



(つづく)

2020年9月28日月曜日

トランプ大統領の再選がありうる背景ーその1 間接選挙制度


Wikipedia Commons より引用

マスコミの報道だと世論調査ではバイデン氏支持が8~9%のリードをとり、トランプ大統領に関する様々な批判と暴露の報道が続き再選はかなり難しいのかなというのが多くの人の読みかと思われます。しかし、2016年のアメリカ大統領選挙はクリントン氏勝利という大勢の読みに反する結果でしたし、もしかする今回の選挙もそのようなことが起こり得るかもしれません。僕はあまり低くない確率でトランプ大統領再選はありうるのではないかと考えています。アメリカに長く住んでいた者の観点からそうなりうる背景を書いてみました。書いていくと長くなったので数回に分けて投稿しますが、読んでいただければ幸いです。

まずは、選挙結果に大きな影響を持つ、アメリカの大統領選が間接選挙制度であるということとその特殊性について書きます。 


『選挙人(Elector)』数 割当て Wikipedia Commonsより引用  


• アメリカ大統領選挙は州ごとに、特定の正副大統領候補ペアを支持する『選挙人(Elector)』を選び、その選挙人が選挙人集会で大統領及び副大統領を選出するという、間接選挙という形で行われます。建国当時、広大な国土を持つアメリカでは現実的に直接選挙を行えなかったということに由来しています。もちろん現在においては直接選挙に替えることは実務的には問題ありません。しかし間接選挙制度を続けることが、アメリカ2大政党、それぞれの州などの政治的利権を保つという利害関係が一致していることもあり、選挙制度を変更するという動きはでてきていません。国民もこれが当たり前と思っているところもあり、変えようという意見はほとんど上がってきません。

• 『選挙人(Elector)』総数は538人で州それぞれの人口に応じて人数が割り当てられます。

一概には投票者は支持する正副大統領候補ペアに投票、最も多く得票した候補がその州の選挙人全員を獲得するという勝者総取りという形で州ごとの選挙人が決まり、選ばれた選挙人はすべて最多得票を得た正副大統領候補ペアの支持者のみということとなります。例外はメインとネブラスカの二つの州のみ。

国の大統領を選ぶ選挙なのですが、厳密には州単位の選挙であり、その実施は州に委ねらているため、実施方法、使用される集計機器・システムなど州ごとに大きく異なることも珍しくはありません。

アメリカには日本のような住民登録という制度がないこともあり、投票するには有権者が自ら、居住する州で有権者登録(「Voter Registration」)を行なってからでないと投票ができません。このため貧困地域・下層階級の住む地域では登録を受け付ける自治体・公官庁のインフラも劣っているので、それらの地域では人口に対し登録済みの有権者数が少ないという格差が生じることが往々にしてあります。従って選挙戦略の一つに自らが有利となりそうな地域・階級などの対象に有権者登録を促し、サポートするということも行われます。

アメリカの州のほとんどは、それぞれの人口統計的属性・政治文化的属性などから歴史・伝統的に民主党支持という州と共和党支持という州にわかれています。このため実際の大統領選の勝敗は、「Swing State」という歴史的に支持政党が変わることが多く、しかも、選挙人の割り当て数の大きな州の結果に委ねられることになります。これらの州がなぜ「Swing」するかというと決まった支持政党のない層(Independents、概して党別で行われる候補者選びの予備選には投票をしない層)の人口が多いということが大きな要因ですが、それ以外にも人口の流動性が高い、それぞれの支持政党への忠誠心よりも自己判断のほうが強い傾向の人々が多く住んでいるということもよういんとしてあるようです。

ただし、一筋縄ではいかないのはこれら「Swing State」州すべてが常に選挙の「Battle Ground State」(接戦・激戦州 つまり前回選挙比べで支持政党が変わる可能性があり得る州)となるかというとそうではないということです。アメリカは、人口移動・経済情勢の変化といった移り変わりが特に激しい国なので、どこが激戦州になるかは、各々の年、さらには分析を行っている人・機関によってある程度異なってきます。一般的には10州前後、今年はペンシルバニア、ウィスコンシン、フロリダ、ミシガン、アリゾナ、ノースカロライナ、ミネソタ、ジョージア、テキサス、オハイオなどがよくあげられています。その中でもとくに揺れている(選挙結果の予想困難・最も激戦)と多くの分析に上がっているのいるのがペンシルバニア、ウィスコンシン、フロリダ、ミシガン、アリゾナ、ノースカロライナです。

このような背景・選挙制度なので、2016年大統領選挙のように、全国レベルでは得票数が少ない候補が勝利を収めるということが起こり得るのです。ごく一部の州の結果が全国レベルでも結果により大きく影響する傾向があるので、激戦州をより正確に見定め、どのように選挙を争うかということが選挙の勝敗を決定する大きな要素ともなり、選挙戦略を候補者と主に司る参謀役のCampaign Manageの力量が大きく問われるわけです。

(つづく)

<参照リンク>

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53798070



2020年6月19日金曜日

ジョージ・フロイド氏殺害と人種差別抗議行動

By Lorie Shaull - https://www.flickr.com/photos/number7cloud/49959004213/, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=90963059

ミネソタ州で黒人のジョージ・フロイド氏が警察官に過度な拘束手段により死亡した事件(その後、当該警察官は殺人罪で起訴、こちら)に端を発し、世界中に広がった反人種差別の抗議行動と暴動。



この事件でまず頭に浮かんだのは、アメリカ在住の時に見た二つの映画。スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』(原題: Do the right thing、1989、予告編上)と第78回アカデミー賞作品賞受賞作品 『クラッシュ』(原題:Crash、2004、予告編下)、そして、1991年のロドニー・キング事件と事件の判決に対する抗議行動と暴動(こちら)。そして思ったのは、結局、何も変わっていないじゃないかという失望感。

アフリカで捕らえられ、奴隷商人の商品としてアメリカの(主に)農場主に売るために連れてこられた人々の子孫。奴隷解放問題が主な引き金となりアメリカを2分し75万人の死者を出したとされる南北戦争、リンカーン大統領による奴隷解放宣言と彼が押し通した奴隷禁止を定める米国憲法第13修正、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が率いた公民権運動の結果1964年に制定された人種差別を禁ずる公民権法など、アメリカではその歴史上人種差別を無くすために、時としては多くの犠牲を伴う、多大な努力がなされ、法制度が整えられてきました。

しかし、法制度改革はあくまでも建前であって、アメリカでの黒人に対する差別は無くならず、彼らの生活も良くならなかった。世代を重ねても生活レベルは向上するどころか低下し、最近ではグローバリゼーション、インターネットなどによる産業構造の変革により、もともとアメリカの中流階級を支えた、いわゆるブルカラーの仕事は大幅に現象したと、直近ではコロナによる大量解雇でさらに大多数の黒人が失業。絶望と不安と不満が満ち溢れて今までに無いぐらいに大きく膨らんできたとき、ジョージ・フロイド氏殺害が起爆剤となり史上もっとも大きく広範囲な抗議行動と暴動につながった。人種差別は3世紀以上、何世代にもわたって黒人の人たちを苦しめてきた、根深い問題。それに昨今の大幅な所得・資産格差の問題、若者たちの高い失業率などの問題が抗議行動を大きく広げた要因だと思う。

ここで紹介した2本の映画以外にも、『カラーパープル(1985)』、『大統領の執事の涙(原題: The Butler(2013)』、『グローリー/明日への行進(原題: Selma、2014)』、『13th -憲法修正第13条-(2016)』、『グリーンブック (2018) 』とアメリカの黒人に対する人種差別が描かれている映画は数に暇がありません。それらがすべて現実を反映していると言うことはとてもかなしことだと思います。

今回の一連の事件が、人種差別問題の真の解決につながる大きな契機となっていくことを望む限りです。




2012年12月17日月曜日

コネティカット州ニュータウンの銃乱射事件

また、とても悲しい事件がアメリカで起きました。アメリカでは多くの学校や職場がlock down drill (ロックダウンドリル)という外部からの乱入者・犯罪に備えた訓練を定期的に行っていることもあってアメリカの多くの人々にとっては我が身・我が子に起こりうる可能性を否定することができない事件でもありました。アメリカに住んでいた頃、銀行強盗が追ってきた警察とが近所で撃ち合い逃亡し娘達が通っていた小学校でロック・ダウンが実施される事態がおきたことがありました。ロックダウン解除後、親が学校まで子供達を引き取りに来るように連絡があり妻が迎えに行ったのですが娘がすぐに出てこなくて先生達も娘がどこにいったが把握しておらず見つかるまで時間がかかったということがあり、妻にとって、この事件の報道は涙を流さずには見れないものでした。

こういう事件がおきるとアメリカでは「銃の保持の規制を強化すべき」、「犯罪を起こすのは銃でなくて人間だ」、「銃を所持していれば、反撃できたはずだ」などの様々な議論が巻き起こりますが、銃器保持の自由化を推進する「全米ライフル協会」(NRA) がアメリカでもっとも政治に影響力を持つロビー団体の一つであることなどもあって、政治・規制上の十分な解決はできていないというのが実情だと思います。

英国ガーディアン紙のオンライン版によりますとアメリカの人口は世界全体の5%未満だが、世界全体で一般市民が保有する銃器類の35-50%はアメリカで保有されているとし、保有率が世界一とランクされています。
http://www.guardian.co.uk/news/datablog/2012/jul/22/gun-homicides-ownership-world-list#data

それに加え、「Stand-your-ground law」という自己防衛のために他人を殺害しても過剰防衛として罪に問われることは無いという法律が21の州で制定されており、銃を自己防衛に使うという考えがより一般的なものとして受け入れられています。確かに、銃器をつかった強盗事件は日常茶飯事、ら凶悪犯罪もしばしば起きるアメリカのような広大な国では何かが起きたときにもっと近い隣人や警察まで車で30分以上かかるなどというところに住んでいる人々も少なく無く、自己防衛はより身近な問題といえるかもしれません。「どうせ悪いやつは非合法に銃器類を入手するのだから、身を守るためには銃を保持する権利を守ることは必要」という意見もよく耳にしました。

このような銃器保持の環境に加え、アメリカの抱える社会的・文化的な問題が本件のような悲劇が引き起こされる要因となっていると僕は思います。アメリカは自由で個人を尊重する資本主義の国ですがその良い面もあれば、逆に勝者と敗者・持つものと持たざる者との違い差が大きい格差社会であり、さらに社会的セイフティー・ネットも十分に整備されているとは言いがたい国です。このことは文化的価値観の形成にもつながっていると思え、たとえば「自分のことは自分以外に頼れない」とか「勝てば過程は正当化できる」だとか言うこともよく聞きました。「正義は必ず勝つというわけでも無く、戦うためには政治力・財力が必要」という話も雑誌や本などでよく読みました。

また、オチこぼれにならないように小さいときから全力疾走で何事もベストな結果を目指して物事に取り組むような姿勢を教えられていくことも、病気で休むと人の2倍働いて・勉強して遅れを取り戻さないといけないということも身をもって経験しましたし、娘達にもそんなことがありました。僕はアメリカで23年暮らしましたが今振リ返るとその間に人々や様々な制度の寛容さが減ってきた様な気もします。やはりこのような厳しい生き様を求めらる世の中では弱者は追い詰められら、拠り所が無くなったりして、何かのきっかけで精神的に問題が生じ理不尽な行動に走ってしまう人が出てきてしまうのかもしれません。

2005年のアカデミー作品賞を受賞した「Crash (邦題:クラッシュ)」という映画があります。これがアメリカ映画かと思えるぐらいに暗いストーリーが展開していくする映画である観点からのアメリカ社会の問題と多くのアメリカ人の苦悩とが具象化された作品といえるでしょう。これ映画を観るとニュータウンの悲しい悲劇が起きうるアメリカのいままで観たことの無かった一面を垣間見ることができると思います。



2012年10月1日月曜日

アメリカの学生ローン




 夏休みに帰省した際に買った本の一冊 『知らないと恥をかく世界の大問題 3』(池上彰著)に 「第2のサブプライムローンか?」との見出しでアメリカの学生ローンのことが書かれていた。 その章の締めくくりの方に『...サブプライムローンを組んで無理してマイホームを買ったように、無理してでも大学に進んでる人たちがおおいのですね。』(p.101)と記されている。なぜアメリカで大学に行くには借金する必要が出てきたのか、なせそれまでしてでも大学に行かなければならないと思う人たちが多いのかについて、23年のアメリカ滞在の経験と大学進学を2年後に控えるアメリカ生まれアメリカ育ちの子供を持つ親の観点から、説明を付け加えてみたいと思う。尚、この本に書かれている事に対して批判しているのではないので誤解のなきようにお願いします。

 アメリカ人が借金までして大学や大学院に行くというのにはアメリカの雇用環境の変化、高等教育学費の高騰などの背景があると考えられる。1970年代終わりごろまでは、大学に行かなくてもそれなりの生活水準を保てる職につくことができる可能性が高かった。これは、工場労働者に対する需要があり、その多くで労働組合に高いレベルの賃金と福利厚生が守られていたからである。工場以外にも水道工、電気工のような様々な職種で組合が組織され賃金、福利厚生その他の既得権が保全されていた。 そのような雇用環境を脅かしたのがオイルショックであり、経済のグローバル化であり、経済環境の変化や技術革新に触発されて起きた様々な産業の再編成・再構築であったと思われる。たとえば、アメリカ人々を生活を支え経済の原動力であった製造業は、その多くが低賃金の国に生産拠点を移し、残った工場はロボットの導入などで求める労働力が肉体労働から知的労働に大きく変化したのである。結果的に、組合によって保障されていた賃金体系と福利厚生が大きく崩れ、より良い仕事、より良い報酬を得る為の競争が過当化し差別化要因の一つとして学歴の必要性が見直されてきたのだと思う。日本のように国民健康保険が一般化している国では想像しにくいことかもしれないが、アメリカでは良い待遇の条件の一つに充実した健康保険があげられる場合が多い。 もともと医療費が極端に高いうえ、健康保険のほとんどが民間保険会社によって提供されている実情では、各々の雇用主がどのような条件の保険に加入しているかによって、自己負担金額も異なれば、保険の対象となりうる治療、検査、薬も異なるのである。加入している健康保険に限りがあるため病気の発見が遅れた、治る病気も治らなかったという悲しい話を聞くのはそれほど珍しいことではない。それでも保険があればいい方で雇用されていても保険が無いという人たちも多くそれらの人々の悩みは深刻なものであろう。このことは中小の自営業者にとっては特に深刻な問題であり、アメリカの選挙で健康保険制度が大きな争点・公約として取上げられているのはこのためである。 

 もう一つの背景は、学費の高騰。 端的な比較で日本の慶応大学と同校と姉妹校のスタンフォード大学と比べると、慶応が年間100万円ちょっとであるのに対しスタンフォードは4万ドル、今の為替レートで換算すると320万円程度でおよそ3.2倍。国民一人当たりの平均GDPと比較すると、慶応が日本のそれに対し約28%、スタンフォードがアメリカのそれに対し約83%。公立は学校によって違うが、アメリカでトップ水準とされるカルフォルニア大学バークレー校は、州民に対する学費は年間1万3千ドル、州民以外の学生に課される学費は3万6千ドルである。それに対し東京大学は年間54万円。

学費の高さもさることながら、日米間の課税後の所得を差ということも見落とせない。一概にアメリカのほうが中所得者層の個人所得の実行税率が高く、たとえば年収1千万の子供が2名いる家庭の場合、日本の11.3%に対しアメリカは18.6%。その上に、健康保険の自己負担分、年金積み立てなどの費用もアメリカのほうが一概に高いことを考えると、同じ所得レベルでは一般的にアメリカの家庭の可処分所得のほうが低いことが多く、其の中から日本より明らかに高い学費を捻出するのは容易でない。これのため、大学に行くのに奨学金やローンに頼らざるをえない人々が大多数であるという現状があるのだと思う。 

ローンを組んで大学にいった人々が卒業後にその支払いに応じられるだけの報酬を得られる仕事に就けるかというと、そうでない場合のほうが多いので学生ローンが次のサブ・プライムになるのではという警告が発せられているわけである。学生ローンを払える人でも、可処分所得はそれだけ減るわけであり、アメリカ経済の足枷の一つともなっている。

付け加えだが、高額所得者に対する累進課税率の上限はアメリカのほうが日本よりだいぶ低く、そのうえ様々な控除により節税手段がありことから、高額所得者の実効税率は一概にアメリカのほうが更に低い。このような現実が、ウォール街占拠運動、1%対99%運動を引き起こし、共和党の候補者ロムニー氏の納税率が大統領選挙の争点になるのである。


個人所得課税の実効税率国際比較(財務省)